Written by Naoaki KURODA

【誰も教えてくれない?!】プロの通訳はどうやってメモを取っているの?

BUSINESS Consulting Svc. Contact Italian Culture Italian Language Language Svc. LIFE STUDY Teaching Class Thought Work

通訳の仕事をやっているけど、メモ取りが苦手でどうしても上達しないのはどうして?

そもそも人が話すスピードで長い文章をメモするのって全然無理じゃない?

通訳で上手にメモできる人って速記かなんかやってるの?

通訳って聞いたことを適当にメモして適当にまとめて話してるだけなんじゃないの?

メモしたことを後から見ても、不完全な単語がいくつか並んでいるだけで、通訳するときに全然活用できないのはなぜ?

外国語の通訳をしている人って一体どんなメモを取ってるの?

今回は、こういった疑問に答えます。

本記事の内容

  • 通訳目的で人の話の内容をメモするときに陥りやすい状況を解説します。
  • プロのイタリア語通訳がメモ取りの具体的な方法をお教えします。
  • 通訳の現場でメモ取りを行う本当の目的をお教えします。

この記事を書いている私は、大学でイタリア語を専門に学んだ後、イタリアに通算15年間在住し、これまで約1000回近いイタリア語通訳・翻訳業務をこなしてきたプロのイタリア語通訳です。

国家資格のイタリア語の通訳案内士(通訳ガイド)免許と実用イタリア語検定1級、CILSのC2(最上級レベル)の資格を持っています。

現在ZOOMを使用したイタリア語専門講座Studio Aria Superioreで検定受験対策やプロ通訳養成講座の専任講師をしています。

順に例を挙げて具体的に解説します。

メモ取りの種類と違い

日常生活での一般的なメモと通訳のためのメモ取りの違い

我々は日常生活のさまざまな場面でメモを取りますよね?

仕事で電話を取った時に、先方の伝言を書き留めたり、上司や来客に言われた内容を書き留めたりもしょっちゅうしていますから、メモ取りという動作自体は誰もが何度も行ったことがあると思います。

日常生活での一般的なメモ

あなたが普段の生活の中でメモを取るときには、何を書き留めていますか?

おそらく次のようなことに留意してポイントをメモしていると思います。

電話応対の場合

  1. いつ電話があったのか?
  2. 誰から電話があったのか?
  3. 何の用件だったのか?
  4. 対応して行うべきことは何か?

来客があった場合

  1. いつ来客があったのか?
  2. 誰が来たのか?
  3. 何の用件だったのか?
  4. 対応して行うべきことは何か?

いかがでしょうか?

普通はこのように①~④についての要点をメモしているのではないかと思います。

このように我々は、メモを取るとき、無意識に要点のみをメモしようとしています。

しかし、このメモの取り方は、通訳を行うときにはうまく機能しない場合が多いのです。

通訳が取る通訳のためのメモ

おそらく通訳になることを目指して語学の勉強をしたり、通訳の養成講座などに参加されたことのある方は、次のようなことを言われた経験があるのではないでしょうか?

  1. 話者の話している内容の中で、自分が要点だと思うことを適宜メモしなさい。
  2. 話の中に出てくる5W1H(Who(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)を指し示す言葉)を全て書き出しなさい。
  3. 重要語句を聞き洩らさないように注意し、後から見てわかるようにできるだけ丁寧にメモしなさい。
  4. 話者の言わんとするところを自分なりに瞬時に要約しながらメモしなさい。
  5. 記号やマークなどを使って図式を書くようにしなさい。

上に挙げた5つのポイントは、通訳がメモを取る上でどれも大事なアドバイスだと思います。

しかし、どうでしょうか?

実際の現場では、これらの5つのポイントの重要性が十分わかっていたとしても、話の内容を100%カバーする有効な通訳メモが効率よく取れない場合が多いのが実情ではないでしょうか?

つまり、本番でいざメモを書こうとすると、最初に聞こえた言葉や、知っている言葉、そして一番耳に残っている言葉などを一生懸命全て書こうとするあまり、出来上がったメモは殴り書きで、何が書いてあるのかわからないだけでなく、かろうじて書かれている言葉も断片的で意味をなしておらず、結局適当な訳出をするしかなくなってしまうといった場面を経験されたことがある人も多いのではないでしょうか?

それではプロの通訳がメモを取るときは、いったいどうしているのでしょうか?

通訳業務の際に通常私が行っている方法を一つの例として、皆さんにご紹介させて頂きます。

プロの通訳のメモ取りとは?

実はプロの通訳は、上の5つのポイントに加えて、次の5つのことに留意しながらメモを取っています。

  1. 聞いている話の全体像と流れを少し高いところから地図を俯瞰するように聞く。
  2. 誰が何をしたのかを簡潔にメモする。(主語と述語をはっきりさせる。)
  3. 何がどうなったのかを簡潔にメモする。(主語と述語をはっきりさせる。)
  4. いつの話をしているのかを簡潔にメモする。
  5. 頭の中で描いていた①の「話の流れ(時間の流れ)の地図」に②③④の内容を示す最小限の単語の一部分を並べたり、はめ込んだりする。

この説明だけだと、まだ抽象的過ぎて少し理解が難しいかもしれませんので、次に簡単な例文を使用して具体的に解説します。

プロのイタリア語通訳がメモ取りの具体的な方法の解説

ここで一つ、日本語を聞いて日本語でメモを取るテストをしてみましょう。

仮に、あなたは音楽雑誌記者で、ある音楽イベントに取材に来たとします。

あなたの任務は、そこで行われたインタビューの内容を全てメモし、誰かに正確に日本語で伝えなければならないとします。

インタビュアーの女性が次のように発言したとして、ご家族のどなたかお友達に、下記の文章を普通のスピードで読んでもらってください。

あなたは下記の文章を全く見ずに、耳から聞いた情報だけを頼りに、書かれた内容を正確に他人に伝達できるようにどのような形でも構わないので、メモをしてみてください。

女性インタビュアー:

「今回の「Musicrunner’s RELAY」は、株式会社フライングダック 代表取締役社長 五十嵐慎太郎さんのご紹介で、株式会社デジタルミュージックアーツ 代表取締役副社長 高田義博さんのご登場です。
母親が買ってくれたオルガンをきっかけに音楽を始めた高田さんは、高校で宇山健二さんに出会いレイダーにキーボードとして加入し、1979年にデビュー。」

はい、いかがでしょうか?

たくさんメモ出来ましたでしょうか?

もしかすると、皆さんが書かれたメモの中身は次のような感じになっていませんか?

今回 ミューじ りれー 株式会 ふら ダック
代表 とりしまり いがらし たろうさん 
かぶしき会社 でじたる あーつ だいひょう しゃちょう たかださん 
ははおや かう おるがん 音楽 はじめ たかだ 高こう うやま しんじ きーぼー 1997 でびゅ 

いや、もしかするとこんな感じになったりしていませんか?

今回 ミューじ かぶしき フライング
だいひょう とりしま いがらし 
かぶしき でじたる だいひょう しゃちょう たかだ 
ははおや おるがん こうこう うやま きーぼーど 

この例文には、あまり聞いたことのないような会社などの長い固有名詞がたくさん出てきます。

それを聞きながら全て書き出すことは非常に難しいです。

なぜなら人が話すスピードよりそれを手書きで書くスピードの方が遅いためです。

もし自分が書いたメモが上の二つのようなものか、それ以下の分量のものであった場合、数分後にそれらのメモだけを見て、自分の頭の中で話者の話を再構築して聴衆に伝えることができそうでしょうか?

おそらくメモを見ても話の内容も流れも思い出せず、「うーん。」と無言な状態が続いてしまうかもしれません。

もしそうなってしまっては、その通訳現場はおしまいですし、その後通訳として、そのクライアントから呼ばれることは2度とないかもしれません。

プロのメモ取りの例

それでは実際に業務をこなしているプロの通訳の場合はどうでしょうか?

結論から申し上げますと、プロの優秀な通訳であれば、この文章のメモ書きは、最終的にはおそらく次のようなものになると考えられます。

こんかい みゅーじくらん りれ

かぶ フラ ダック
代社
いがらししんたろう

かぶ デジ ミュ アーツ
代ふ社
たかだ よしひろ

はは かう オルガン
おんがく スタート  たかだ

高 あう  うやま けんじ
レイダ キーボ 加入

79 デビュ

いかがでしょうか?

さっきのメモ書きの例と似ているところと異なるところがわかりますでしょうか?

もし、これくらいの分量のメモで良いなら、なんとか聞きながらでも書けるのではないでしょうか?

プロのメモ取りの具体的な違いとその手順

それではなぜ最終的にこのようになるのかを解説します。

まず、例文の中にある単語を動詞(群)と名詞(群)に分けます。

なぜそんなことをするのでしょうか?

簡潔にお答えすると、

「通訳は訳出する際、必ず次のように文章をクローズする必要があるから」

です。

「〇〇〇は、✕✕✕です。」

たとえば通訳が「ローマは、イタリアの首都です。」と訳さなければならない場面で、

「ローマは、イタリアの・・・」で終わってしまっては、聞いている人には何を言っているのか伝わりませんし、

逆に、

「・・・は、イタリアの首都です。」と主語を聞き落した場合、主語が言えないので、聞き取れた後半の述語の部分も言えなくなってしまい、訳出は結局「(無言)」となってしまいます。

このため、主語と述語、つまり全ての名詞と動詞を必ず抽出する必要があるのです。

そして数的データは落とさないことも重要なポイントです。

それでは、まず文章の前半部分を見てみましょう。

「今回の「Musicrunner’s RELAY」は、株式会社フライングダック 代表取締役社長 五十嵐慎太郎さんのご紹介で、株式会社デジタルミュージックアーツ 代表取締役副社長 高田義博さんのご登場です。」

とありますので、以下のように単語が分類できます。

動詞群には、
のご紹介で
のご登場です

名詞群には、
今回
Musicrunner’s Relay
株式会社フライングダック
代表取締役社長
五十嵐慎太郎
株式会社デジタルミュージックアーツ
代表取締役副社長
高田義博

次に、これらの単語をさらに簡略化した場合の例を挙げてみます。

動詞群
紹介
登場

名詞群
今回
Musicrunner’s Relay
株フラダック
代社長
五十嵐慎太郎
株デジミューアーツ
代副社長
高田義博

となります。

その次に、これらの簡略化した単語を、さらに簡略化して話の流れ順に配置した場合は次のようになります。

今回 Murun Relay

株フラダック
代社
五十嵐慎太郎

株デジミュアーツ
代副社
高田義博

文章全体の情報を伝えるのに最低限必要な単語を、最も容易で字画の少ないスピーディーな方法で書くと次のようになります。

こんかい みゅーじくらん りれ

かぶ フラ ダック
代社
いがらししんたろう

かぶ デジ ミュ アーツ
代ふ社
たかだ よしひろ

文章の後半部分も同じように分類してみましょう。

「母親が買ってくれたオルガンをきっかけに音楽を始めた高田さんは、高校で宇山健二さんに出会いレイダーにキーボードとして加入し、1979年にデビュー。」

動詞群
買ってくれた
音楽を始めた
出会い
加入し
デビュー

名詞群
はは
オルガン
高田
高校
宇山健二
レイダー
キーボード
1979

次に、上記の単語をさらに簡略化した場合の例を挙げてみます。

動詞群

音楽 始
会う
加入
デビュー

となり、

名詞群
はは
オルガン
高田
高校
宇山健二
レイダー
キーボード
1979

となります。

その次に、これらの簡略化した単語を、さらに簡略化して話の流れ順に配置した場合は次のようになります。

はは 買 オルガン
音楽 始  高田
高校 会う  宇山健二
レイダ キーボ 加入
79 デビュ

最後に、文章全体の情報を伝えるのに最低限必要な単語を、最も容易で字画の少ないスピーディーな方法で書くと次のようになります。

はは かう オルガン
おんがく スタート  たかだ

高 あう  うやま けんじ
レイダ キーボ 加入

79 デビュ

前半と後半をもう一度まとめて書くとこのようになります。

こんかい みゅーじくらん りれ

かぶ フラ ダック
代社
いがらししんたろう

かぶ デジ ミュ アーツ
代ふ社
たかだ よしひろ

はは かう オルガン
おんがく スタート  たかだ

高 あう  うやま けんじ
レイダ キーボ 加入

79 デビュ

これらの必要最小限に圧縮された情報をさらに小さくし、話の時間的な流れや登場する人物やモノと動詞の関係性を図式化するために、アルファベットを使ったり、「高校」と書く代わりに高という漢字を〇で囲んだり、「紹介」や「紹」と書く代わりに「⇨」マークを入れて表現したりして、より自分が後から見てわかりやすくするための工夫を盛り込んでいくと、さらに洗練されたメモ書きとなります。

試しにこの最後にまとめたメモを見て、先ほどの女性インタビュアーの文章を思い出しながら文章を再構築して実際にご自分で言ってみてください。

もし、メモ書きに書かれている単語を全て使用して文章を再構築できていれば、元の文章の内容をほぼ100%網羅できています。

このようにプロの通訳は、できる限りこの100%を目指してメモ取りを効率よく行い、正確な訳出ができるように奮闘しており、本当に優秀なプロの通訳は、ほぼ毎回100%の精度が出せているはずです。

また、このようなツボを押さえたメモ書きがスムーズに正確にできるようになれば、もっと高度な技を使うことができるようにもなります。

それは、メモに書かれた単語を上から順番に使用しながら順繰りに訳出を行うのではなく、最後の単語から最初の単語に向けて上に上がって行ったり下がったりしながら、つまり、話の流れを逆流させたり元に戻したりしながらでも、伝達する内容はほとんど同じに保てるという技です。

ひとつ例を挙げますね。

「今回の「Musicrunner’s RELAY」は、株式会社デジタルミュージックアーツ 代表取締役副社長 高田義博さんのご登場です。

1979年にデビューした高田さんは、高校時代に出会った宇山健二さんとレイダーというグループに、キーボードとして加入されました。

高田さんが音楽を始めたきっかけは、高田さんのお母さんに買ってもらったオルガンだったそうです。

今回の対談は、株式会社フライングダック 代表取締役社長 五十嵐慎太郎さんからのご紹介で実現しました。」

いかがでしょうか?

文章の順番や単語の語順は大きく変わっていますが、メモされた単語は全て使用されていますし、伝えられている内容もほとんど変わっていないのがお分かりいただけると思います。

これができるようになると、現場での訳出の応用力が飛躍的に向上します。

まとめ

通訳の現場でメモ取りを行う本当の目的

日常生活でのメモ書きと違って、通訳現場での通訳のメモ取りは、相手の用件を書いているのではありませんし、聞こえた単語をただ書いている訳でもありませんし、要点を適当にまとめて書き出している訳でもありません。

通訳は、話者の話の中に出てくるさまざまな名詞や固有名詞が、どういった動詞を使ってどっちの方向に、いつどのように動いたり作用したりしているのかを、後から自分が見て分かるように最大限簡略化して記載したり図式化したりすることによって情報を圧縮しながら、全て書き出しているのです。

そうすることによって、話者から発せられる言葉の一言一句を聞き落とすことも書き漏らすこともなく、ほぼ100%の精度の訳出を常に可能にしているのです。

記事を最後まで読んでいただきましてありがとうございました!

もし、この記事を読んで少しでも参考になったようでしたら、下にある「いいね!」ボタンを押して頂ければ嬉しいです。

どうぞ宜しくお願い致します。


上級イタリア語専門教室
Studio Aria Superiore
プロ通訳養成講座
専任講師 黒田 直明

https://www.ariajapan.com/private-lesson

筆者のプロフィール

ZOOMを使用したオンライン個人授業でイタリア語を教えています。もしご興味のある方は下記のリンクをご覧ください。

 
https://www.ariajapan.com/private-lesson

【付録】

もしお時間が許すようでしたら、以下の例文を使用してご自身で練習をしてみてください。

「解散後は新バンド Velvet Strokesで活動しつつ、アニメのイメージアルバムなどを手がけられるようになります。

そして、2001年にアニメ音楽専門のレコード会社 ランディスを設立し、アニソンを世界中で人気のコンテンツにまで押し上げました。

そんな高田さんにレイダー時代のお話から、ランディス設立とアニメ音楽の現在そして今後までじっくり伺いました。」