工場における産業機械のメンテナンス ーコロナ時代の新しいイタリア語技術通訳の形ー
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海外製の産業機械の定期メンテナンスの時期が来たんだけど、複雑すぎて自分達だけでメンテすると壊してしまいそうで怖いので、メーカーから専門の技術者を呼びたいが予算的に難しいので困っている。
外国製の工業機械を使用しているけど、今コロナで渡航制限がかかっているため、海外のメーカーからメンテナンスのための技術者を派遣してもらえず、そのまま機械を稼働させているのでこの先故障が心配。
海外メーカーから技術者を日本まで派遣してもらうと、日本までの旅費・出張費や日本での滞在費、食事代、ポケットマネー代、通訳費用などで、すぐに数十万円から100万円単位のお金がかかるので、なんとかコストダウンを図りたい。
多額の費用をかけて海外から外国人の技術者を派遣してもらっても、現場では不慣れな英語でのやり取りが求められ、非常に効率が悪いので、困っている。
このような悩みや不安を抱えている日本企業は少なくないと思います。
そこで本日は、これらの問題を解決できるかもしれない新しい技術通訳の方法を、直近の実例に基づいて解説したいと思います。
これは私のイタリア語通訳の分野だけでなく英語やフランス語などの他の言語にもあてはまるお話ですので、もしよろしければ最後までお付き合いください。
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本記事の内容
- 海外製の産業機械購入のメリットとデメリット
- 海外メーカーの技術者を日本に派遣してもらう際にかかる膨大な費用の内訳
- コロナ禍の真っ只中で舞い込んだ工場でのイタリア語通訳依頼に対応した実例
- 大幅なコストダウンが見込める、工場での技術通訳の新しい形
- まとめ
この記事を書いている私は、大学でイタリア語を専門に学びました。
在学中にフィレンツェ、シエナ外国人大学、ローマ大学 ”La Sapienza” に留学した後、大学卒業と同時に在イタリア日本国大使館で外務省在外公館派遣員として2年間勤務しました。
その後プロのイタリア語通訳として仕事を始め、イタリアには通算で15年間在住していました。
これまでイタリアと日本で約1000回を超えるイタリア語通訳をこなしてきました。
国家資格のイタリア語の通訳案内士(通訳ガイド)免許と実用イタリア語検定1級、イタリアシエナ外国人大学が実施しているイタリア語検定試験CILSのC2(最上級レベル)の資格を持っています。
1.海外製の産業機械購入のメリットとデメリット
外国製の産業機械を購入するメリットとデメリットには何があるでしょうか?
皆さんもご存知のように、日本には世界的にその名を知られた優れた工業機械のメーカーが数多くあります。
しかし、海外で行われる工業見本市等で、価格や性能面で自社のニーズにより合致した外国製の優れた産業機械や工業機械を見つけて購入し、日本国内の工場で稼働させている企業も日本にはたくさんあります。
このように、外国製の産業機械を購入するメリットとしては、自社のニーズに合ったものをすぐに導入できるという点が挙げられます。
しかし、これらの機械も機械である以上、稼働させていればいずれ定期メンテナンスや故障部分の修理という問題が出てきます。
簡単なメンテであれば自社内の技術者だけで行っても問題ないかもしれませんが、海外のメーカーからわざわざ購入する価値があるようなものは、通常そんなに簡単な仕組みにはなっておらず、メンテの方法や手順を間違えることによって予期せぬ破損を招き、それをまた修理するために余計なお金が何十万円もかかってしまったりもします。
実際私が見た例の中に、日本の作業員の方が、メンテ作業をしていたメーカのイタリア人技術者に確認せず勝手に製造ラインの駆動モーターの電源を入れてしまい、一瞬にしてその大きなモーターが焼けついてしまったことがありました。
おそらくその一瞬で、少なくとも数十万円の余分なコストがそのモーターの交換に掛かったと思います。
通常、日本の企業が海外製の機械設備を導入する場合、不慮の故障や破損等を避けるために、その機械を購入した海外のメーカーと「予防的メンテナンス(定期メンテナンス)契約」と呼ばれるような契約を結び、将来にわたって設備保全に万全を期します。
そして、定期的に海外メーカーから1名から数名の技術者を少なくとも数日間派遣してもらい、必要な消耗部品等を購入しながらメンテナンス作業をしてもらいます。
このように、定期的なメンテナンスに加えて、不慮の機械の不具合や破損修理のために、外国人の出張者を迎えるコストは、おそらく海外製の産業機械を購入する際のデメリットになるでしょう。
2.海外メーカーの技術者を日本に派遣してもらう際にかかる膨大な費用の内訳
それでは、購入した産業機械のメーカーから、外国人の専門の技術者を派遣してもらった時にかかる費用には具体的にどのようなものがるのでしょうか?
まず、必ずかかる費用の大まかな内訳は以下のとおりです。
旅費(日本往復航空券代、鉄道代、タクシー代等)
出張費(メーカーとの取り決めに基づく)
日本滞在費(ホテルなどの宿泊代)
食事代(朝昼晩)
ポケットマネー代(出張者の滞在中のお小遣い)
これらに加えて、もし必要がある場合は、私のような技術通訳を呼ぶ費用もプラスアルファーで掛かります。
そのため、メンテにかかる日数にもよりますが、最終的に少なくとも1回数十万円から100万円単位でのお金が掛かってきます。
3.コロナ禍の真っ只中で舞い込んだ工場でのイタリア語通訳依頼に対応した実例
先日、ある大手企業でのイタリア語技術通訳の依頼がありました。
イタリアから購入した大型の産業機械のメインテナンスを行う際の通訳をして欲しいというご依頼でした。
実は、我々に依頼される通訳のお仕事の中で、比較的依頼件数が多いものに、工場での産業機械に関する技術通訳というものがあります。
これらの技術通訳は、おおむね以下の4つの種類に分けられます。
- 新規工場の新設と立ち上げ
- 新規工業機械の導入・設置及び撤去
- 定期メンテナンス
- 故障した産業機械の緊急修理
今回のご依頼は、上の分類の3.と4.にあてはまるものでした。
工場で機械を使用し続けている以上、必ずメンテナンスの時期は来てしまいます。
しかしその時期は、まだコロナ真っ只中でしたので、当然イタリアからメインテナンス担当の技術者が来日して、直接現場に来てメンテナンス作業を行ったり、日本側の担当者に直接指導したりすることは現実的ではありませんでした。
ではどのように対応したのでしょうか?
答えは次の通りです。
イタリアからの出張者が誰もいない現場の工場に通訳である私一人が行き、工場のライン担当の従業員の方々とイタリアにいる担当者であるイタリア人技術者との間の会話の通訳を、スマホをのみを使用しながら2日間(計17時間)行い、無事メンテナンス作業を完了できたのです。
こう書くと、「なーんだ、ただスマホを使ってインターネット電話かなんかで、イタリア人と日本人との間の話を通訳しながらメンテナンス作業を日本人にしてもらったんでしょ?」と、皆さんお思いになるのではないかと思います。
しかし、そうではありません。
私は、その工場での2日間、ほぼイタリア語を口にしたことはありませんでした。
「えーっ?!イタリア語通訳がイタリア語を喋らないでどうやって通訳すんの??」と、皆さん不思議に思われるかもしれませんが、それができる時代になったのです。
それも喋るよりも効率的にです。
いったいどうゆうことなのでしょうか?
次の第4章で詳しくご説明しましょう。
4.大幅なコストダウンが見込める工場での技術通訳の新しい形
それでは種明かしをする前に、皆さんに質問があります。
皆さんはスマホに LINE を入れてらっしゃいますか?
日本ではスマホを使っているほぼすべての人が LINE というアプリを使ってらっしゃるのではないでしょうか?
一方イタリアでは、 LINE は主要なコミュニケーションツールではなく、それに代わるアプリとして WhatsApp というものが広く使用されています。
この WhatsApp かアプリは、スマホを持っているイタリア人のほぼすべての人が持っていると言っても過言ではないでしょう。
ほぼ使い方は LINE と変わりません。
PC からメッセージや画像を送ったり受けたりすることも可能です。
WhatsAppを使ってインターネット電話も可能です。
今回はこのWhatsAppという無料のアプリを使用して通訳をしたのです。
「ほら、やっぱりインターネット電話じゃん!」と、思われるかもしれませんがそうではありません。
実は、「チャット機能」のみを使用して2日間通訳をしたのです。
「えっ?いちいち文字打ってチャットより電話で話した方が速くない?」と思われるかもしれませんが、実際はそうではありませんでした。
わたしも最初「電話で話した方が速いかな?」と思っていましたが、全く違いました。
喉も全く疲れませんでしたし、なにより、現場にいた人全員が非常に静かな環境でストレスなく仕事ができたと思います。
というのは、私はずっとイタリア側とチャットをしながら無言で話をしているので、日本側のスタッフの話はいつでも聞こえていますし、イタリアからの指示内容を日本語で伝える時と私が日本側に何かを確認したいときにしか基本話さないので、理解不能であるがために耳障りになりかねないイタリア語で私が電話口でがなり立てたり、一方的にイタリア側がしゃべっている声などが常にスピーカーなどから聞こえ続けているというようなことが、2日間全くなかったからです。
今回の現場で取った通訳方法は次の通りです。
現場の写真をパチパチ取りながら端的で正確な質問・確認メッセージを打ち込んでいきながら、どこの何をどうしていくのかを尋ねて行き、イタリアにいる技術者からそれらの質問に対する回答と指示を連続的に受け、その内容を日本語に瞬時に翻訳して現場で実際の作業にあたる日本の担当者の方々に伝えて行ったのです。
イタリア側はおそらくPCからWhatsAppにアクセスしていて、瞬時に必要な図面をPCのホルダー等から引き出して確認したり、我々に転送したりしながらサポートをしてくれました。
この技術的資料の確認と転送は、おそらくこの遠隔でWhatsAppアプリを使用した方法だからできたことで、実際にイタリア人技術者が来日して現場で手作業をしながらでは、難しかったと思いますので、この方法で得られた大きなメリットであったと思います。
この方法は、私自身もあまり想像していなかった非常に効率の高い技術通訳の方法であったので、とても驚きました。
工場の担当者の方も、当初予備日も入れて3日の予定を丸2日に短縮して作業を完了できただけでなく、イタリア人の技術者に出張で来てもらった場合と比べて約10分の1に近いコストで今回のメンテナンス作業を行うことができたと喜んでおられ、また次回もよろしくお願いしますと仰っていただけました。
ここで先ほどの、イタリア人出張者を迎えた場合に必ずかかる費用の大まかな内訳を見てみましょう。
旅費(日本往復航空券代、鉄道代、タクシー代等)
出張費(メーカーとの取り決めに基づく)
日本滞在費(ホテルなどの宿泊代)
食事代(朝昼晩)
ポケットマネー代(出張者の滞在中のお小遣い)
プラス
通訳が必要な場合は以下の通訳に関する費用が掛かります。
通訳料
通訳の旅費
通訳の滞在費
通訳の食事代(朝昼晩)
そして、今回掛かった費用と節約できた費用の項目は次のとおりです。
今回実際にかかった費用(イタリア語通訳)
通訳料
通訳の旅費
通訳の滞在費
通訳の食事代(朝昼晩)
のみ
今回節約できた費用(イタリア人技術者)
旅費(日本往復航空券代、鉄道代、タクシー代等)
出張費(メーカーとの取り決めに基づく)
日本滞在費(ホテルなどの宿泊代)
食事代(朝昼晩)
ポケットマネー代(出張者の滞在中のお小遣い)
すべて
いかがでしょうか?
工場の担当者の方のお話では、おそらく100万円~200万円前後のコスト削減ができたとのことでした。この1回(2日間)のメンテナンス作業でこのコスト削減なのです!
5.まとめ
海外から購入した特殊な設備や機械のメンテナンス(保全)にメーカーの技術者の立ち合いが必要な場合は、日本往復のための旅費、出張費、滞在費、通訳料(通訳が必要な場合)等の膨大な費用が掛かり、少なくとも数十万円から100万円単位のコストが毎回掛かってきます。
しかし、海外で広く使用されている無料チャットアプリであるWhatsAppを使用することにより、大幅なコストダウンと効率化を見込むことができます。
つまり、かなり大掛かりなものであっても、設備の定期メンテナンスや簡単な修理程度であれば、WhatsAppと高速Wi-Fiルーターと的確で正確なメッセージをやり取りできる経験豊富な技術通訳が一人いれば、世界中の海外メーカーから毎回技術者を招くことなく、全く問題なく行うことができる時代にもうすでになっているということなのです。
但し、いくつか注意点を述べるとすると、日本側の事前準備と海外メーカーとの作業内容のすり合わせをしっかりしておくことと、海外との時差を考慮した作業時間の設定には十分注意を払う必要があります。
今回の工場でのメンテナンス作業の成功は、まさしくこれらのことすべてがきちんと行われていたからであることも念のため付け加えておきます。
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